第110回 看護師国家試験 午後 問110 解説
📝 問題
Aさん(32歳、男性)は覚せい剤の薬物依存症の治療のため精神科病院に入院した。入院2週後、Aさんは病棟生活のルールを守ることができず、それを注意した看護師に対して攻撃的になることがあった。別の看護師がAさんに理由を尋ねると「指図するような話し方をされると、暴力的だった父親を思い出し、冷静でいられなくなる」と話した。 このときAさんに起こっているのはどれか。
✅ 正解
1
💡 解説
✅ 過去の父親への感情を看護師に向けているのは転移である。
Aさんは、注意した看護師に対して、暴力的だった父親を思い出して冷静でいられなくなると述べている。 これは過去の重要な人物(父親)に向けていた感情や態度を、いま関わっている相手(看護師)へ無意識に向け替える心の動きで、精神分析でいう転移にあたる。
紛らわしいのは逆転移で、こちらは向きが反対、治療者の側が患者へ自分の感情を向けてしまうことをいう。 躁的防衛は不安や抑うつを万能感・活動性で覆い隠す防衛機制、反動形成は本来の欲求と正反対の態度をとる防衛機制で、どちらも本場面の説明にはならない。
感情の向きで見分ける。患者から治療者へなら転移、治療者から患者へなら逆転移である。
防衛機制とは
受け入れがたい不安や欲求から心を守るために、無意識に働く心の仕組み。抑圧・否認・投影など多くの型がある。
- 1
転移正解
過去の父親への感情を現在の看護師に無意識に向け替えており、これは転移である。
- 2
逆転移不正解
逆転移は治療者側が患者に自分の感情を向けること。本例は患者から看護師への感情で該当しない。
- 3
躁的防衛不正解
躁的防衛は抑うつ・不安を活動性や万能感で覆う防衛で、本場面とは異なる。
- 4
反動形成不正解
反動形成は本来の欲求と正反対の態度をとる防衛機制で、該当しない。
📚 事例のひとことから見分ける
転移・逆転移と防衛機制は、事例のひとことがどれにあたるかを選ばせる形で出る。名前を丸暗記するより、「その人は何を避けようとしているのか」を読み取るほうが早い。
- 治療者は自分の感情の動き(逆転移)に気づき、カンファレンスやスーパービジョンで扱うことが重要
| 機制 | 内容 |
|---|---|
| 抑圧 | 受け入れがたい感情や記憶を意識から締め出す |
| 否認 | 事実そのものを認めない |
| 投影 | 自分の感情を相手のものとみなす |
| 反動形成 | 本来の欲求と正反対の態度をとる |
| 合理化 | もっともらしい理由をつけて正当化する |
| 退行 | より未熟な発達段階の行動に戻る |
| 置き換え | 感情を本来の対象とは別の対象に向ける |
| 昇華 | 欲求を社会的に受け入れられる形に置き換える |
出典:「第110回看護師国家試験の問題および正答について」(厚生労働省)を加工して作成 → 出典について