第115回 看護師国家試験 午後 問116 解説
📝 問題
次の文を読み115〜117の問いに答えよ。 Aさん(27歳、男性、会社員)は1人で暮らしている。最近、事務部門から営業部門に異動になった。新しい人間関係と慣れない仕事で帰宅後も緊張が取れず、眠れない日が続いていた。異動から3週目の朝、会社のエレベーターに乗ると、息苦しさ、動悸からパニック発作を起こした。その後も不眠とパニック発作が出現したため、異動から2か月後、精神科クリニックを受診し、パニック症〈パニック障害〉と診断された。主治医からは、短時間型の睡眠薬と抗うつ薬が処方された。また、職場の協力を得て、苦手な仕事のサポートをしてもらうことになった。受診から2日、Aさんから「また発作が起きるのではないかと考えてしまい、家から出られません」とクリニックに電話があった。 1か月後、Aさんは通勤途中の電車の中で再びパニック発作を起こし、受診した。看護師が話を聞くと「そのときは、息が止まってしまうように感じました。また同じようになるかと思うと怖くて電車に乗れません。仕事にも支障が出ています。電車での通勤は続けたいです」と話した。 相談を受けた看護師のAさんへの対応で最も適切なのはどれか。
✅ 正解
4
💡 解説
✅ 電車通勤を続けたいというAさんには、発作が起きそうな場面を想定した対処法を看護師と一緒に練習するのが最も適切である。
Aさんは「電車での通勤は続けたいです」と明確に希望を述べている。 必要なのは電車を避ける工夫ではなく、電車に乗れるようになるための準備である。 発作が起きそうな場面を具体的に想定し、そのときの呼吸法や思考の切り替え、その場でできる行動を看護師と一緒に練習しておくことが、認知行動療法の考え方に基づく実際的な支援になる。
回避は短期的には不安を下げるが、長期的には「避けたから助かった」という学習を強め、行けない場所を増やしていく。 段階的に慣らしていくこと(曝露)と、使える対処手段を持つことが、生活範囲を取り戻す鍵になる。
- 1
目的地までの別の通勤経路を検討する。不正解
別経路の検討は回避行動を追認するもので、「電車通勤を続けたい」というAさんの希望にも反する。避ける場所が増えると生活範囲はさらに狭まっていく。
- 2
抗うつ薬の効果についての正しい知識を教育する。不正解
抗うつ薬(SSRI)の効果と副作用、効果発現まで2〜4週かかることの教育は服薬継続に不可欠だが、いま訴えられている「電車に乗れない」への直接の答えにはならない。並行して行う支援である。
- 3
同じ症状を持つ人々との話し合いができる場を紹介する。不正解
セルフヘルプグループの紹介は有用な資源だが、この場面で最も必要なのは、次に電車に乗るときにどうするかという具体的な手立てである。優先度は下がる。
- 4
発作を起こしそうな場面を想定した対処法を看護師と一緒に練習する。正解
発作が起きそうな場面を想定して対処法(腹式呼吸、「必ず収まる」と自分に言い聞かせる、次の駅で降りて休む、頓服の使い方)を一緒に練習しておくと、実際の場面で使える。自己効力感が高まり、段階的に乗車時間を延ばす取り組みにつなげられる。
📚 ここも一緒におさえておこう
パニック症の認知行動療法は、いくつかの要素を組み合わせて行われる。
- 不安階層表=不安の強さを0〜100で数値化し、不安の弱い状況から順に取り組む
- 過換気になると血中の二酸化炭素が減少して手足のしびれやめまいが生じ、不安をさらに強める。ゆっくり長く吐く呼吸が有効である
- 本人の希望(何ができるようになりたいか)を目標に据えることが、取り組みの継続を左右する
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 心理教育 | 発作のしくみ、命に関わらないこと、悪循環の成り立ちを説明する |
| 呼吸法・リラクセーション | 腹式呼吸、漸進的筋弛緩法で過換気と緊張を和らげる |
| 認知再構成 | 「死んでしまう」「倒れる」といった破局的な解釈を現実的な見方に置き換える |
| 内部感覚曝露 | 意図的に身体感覚を起こし、それが危険でないことを学習する |
| 現実曝露(段階的曝露) | 不安階層表に沿って、不安の弱い状況から実際に挑戦していく |
| 再発予防 | 対処法を定着させ、症状が戻ったときの対応を決めておく |
参考: パニック症・限局性恐怖症・社交不安症の診療ガイドライン(日本不安症学会・日本神経精神薬理学会)/認知行動療法の普及に関する厚生労働省資料
出典:「第115回看護師国家試験の問題および正答について」(厚生労働省)を加工して作成 → 出典について