第115回 看護師国家試験 午後 問112 解説
📝 問題
次の文を読み112〜114の問いに答えよ。 Aさん(26歳、女性)は高校生のころからリストカットを繰り返し、ボーダーラインパーソナリティ症〈境界性パーソナリティ障害〉の診断を受けている。最近仕事が忙しくなったパートナーに「今すぐ返事が欲しい。私を見捨てるのか」とメールを送り続け、帰宅したパートナーが、手首から血を流しているAさんを見つけた。パートナーに付き添われて総合病院の救急外来を受診したAさんは、意識清明で神経損傷はなく、手首の処置をした看護師に「消えてしまいたい。生きている意味がない」と話した。 処置時の看護師の声かけで適切なのはどれか。
✅ 正解
2
💡 解説
✅ 「死にたいと思うほどつらかったのですね」と、自殺念慮の背後にあるつらさを受け止めて返すのが適切である。
「消えてしまいたい」「生きている意味がない」という言葉は、直接的な自殺念慮の表明である。 このとき最初にすべきは説得でも禁止でもなく、その気持ちを言葉にして受け止めることである。 「死にたいと思うほどつらかったのですね」という応答は、Aさんの感情に名前をつけて返すもので、話してよい相手だと伝わり、その後の危険度の評価と支援につながる。
自殺の危険がある人への関わりは、心配を伝える・率直に尋ねる・否定せずに聴く・安全を確保する、の4つ(TALKの原則)にまとめられる。
- 1
「パートナーの気持ちを考えましょう」不正解
「パートナーの気持ちを考えましょう」は、つらさを訴えている本人に他者への配慮を求める説教であり、見捨てられ不安を強めてしまう。いまは本人の感情を扱う場面である。
- 2
「死にたいと思うほどつらかったのですね」正解
自殺念慮を否定も評価もせず、その背後にある苦痛を受け止めて言葉にして返している。感情が受け止められた体験は信頼関係の起点になり、その後の危険度の評価やケアの導入を可能にする。
- 3
「メールの返信はすぐにはできないものですよ」不正解
「メールの返信はすぐにはできないもの」という一般論は、Aさんの体験を矮小化し、分かってもらえないという感覚を強める。行動の是非を論じる段階ではない。
- 4
「つらくても自分を傷つけることはやめましょう」不正解
自傷をやめるよう求める指示は、Aさんにとって「また否定された」という体験になりうる。自傷は多くの場合、耐えがたい感情に対処するための手段であり、まず気持ちを受け止め、後から別の対処方法を一緒に探す。
📚 混同しやすいので注意
自傷と自殺は同じではないが、自傷の既往は将来の自殺の危険因子でもある。両方を見据えた関わりが要る。
- ボーダーラインパーソナリティ症の中心的特徴=見捨てられることへの強い不安、理想化とこき下ろしの間で揺れる対人関係、感情の不安定さ、衝動性、慢性的な空虚感、自傷・自殺企図
- 救急外来では身体的処置と並行して、自殺の危険度の評価(計画性、手段、既往、支援者の有無)と精神科へのつなぎを行う
- 「死にたい気持ちを尋ねると自殺を促す」というのは誤りで、率直に尋ねることが支援の入口になる
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| Tell | 「あなたのことが心配だ」と言葉に出して伝える |
| Ask | 「死にたいと思っていますか」と率直に尋ねる |
| Listen | 否定・説得・議論をせず、絶望的な気持ちを傾聴する |
| Keep safe | ひとりにせず、危険物を遠ざけ、専門的な支援につなぐ |
参考: 自殺総合対策大綱(政府)/精神科救急医療ガイドライン(日本精神科救急学会)
出典:「第115回看護師国家試験の問題および正答について」(厚生労働省)を加工して作成 → 出典について