第110回 看護師国家試験 午前 問91 解説
📝 問題
A さん(43歳、女性)は夫と2人暮らし。身長150 cm、体重98 kg。既往歴はない。先日、庭で転倒し右腓骨を骨折し、膝関節から足関節までのギプス固定をしている。来週、プレート固定術を受けることになっており、本日は夫と一緒に術前オリエンテーションに来院した。来院時のA さんのバイタルサインは、体温36.8℃、呼吸数16/分、脈拍80/分、血圧138/80 mmHgであった。夫によると「妻は、寝ているときはいつも大きないびきと、時々無呼吸があるので、慌てて起こしている」と言う。 手術までの自宅でのA さんの過ごし方で、優先して指導すべき内容はどれか。
✅ 正解
2
💡 解説
✅ 肺血栓塞栓症の予防のため、ギプス固定下でも足趾の運動を優先して指導する。
Aさんは身長150cm・体重98kg(BMI約43.6)の高度肥満で、睡眠時のいびきと無呼吸から睡眠時無呼吸症候群が疑われ、さらに下肢のギプス固定による長期の下肢不動がある。 これらはいずれも深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症の強い危険因子であり、手術を控えた自宅療養期間中も血栓予防が最優先となる。 ギプスで膝から足関節まで固定されていても、露出している足趾は動かせるため、足趾の底背屈運動を促し下肢の静脈還流を保つことが最も適切である。
高度肥満・下肢不動・術前という三重の血栓リスクを状況文から読み取ることが重要である。 術前オリエンテーションの段階で、自宅でできる足趾運動と早期からの下肢筋ポンプ作用の維持を指導しておくことが、術後の致死的な肺血栓塞栓症の予防につながる。
深部静脈血栓症とは
ふくらはぎなど脚の深いところを走る静脈に血の塊ができた状態。長く動かずにいると起こりやすく、長時間同じ姿勢が続いて起こるものは「エコノミークラス症候群」ともよばれる。
静脈還流とは
全身をめぐった血液が心臓へ戻る流れ。下肢では重力に逆らって戻るため、動かさないでいると流れが滞る。
- 1
食事制限不正解
減量は望ましいが手術直前の急激な食事制限は現実的でなく、優先度は低い。
- 2
足趾の運動正解
ギプス下でも動かせる足趾の運動で静脈還流を保ち、深部静脈血栓症を予防する。
- 3
ベッド上安静不正解
ベッド上安静はむしろ下肢不動を助長し、血栓リスクを高めるため不適切。
- 4
体位変換の方法不正解
体位変換は褥瘡予防等で有用だが、この状況で最優先すべき血栓予防には及ばない。
📚 国試でよく狙われるところ
静脈血栓塞栓症は、事例のどこに危険因子が隠れているかを読み取らせる形で出る。危険因子と予防法は裏返しの関係なので、対にして覚えよう。 静脈血栓塞栓症〈VTE〉の成因はVirchow(ウィルヒョウ)の3徴(血流の停滞・血管内皮の障害・血液凝固能の亢進)で説明される。
- 危険因子=肥満、高齢、長時間の不動(下肢ギプス・術後臥床・長距離移動)、悪性腫瘍、妊娠・産褥、経口避妊薬、脱水、VTEの既往
- 予防=早期離床と足関節・足趾の底背屈運動、十分な補水、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、抗凝固薬
- 深部静脈血栓症の症状=下肢の腫脹・疼痛・熱感・色調変化、Homans(ホーマンズ)徴候(足関節の背屈で腓腹部痛)
- 肺血栓塞栓症=突然の呼吸困難・胸痛・頻呼吸・SpO₂低下。離床開始時や排便・排尿後に生じやすい
参考: 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン
出典:「第110回看護師国家試験の問題および正答について」(厚生労働省)を加工して作成 → 出典について