第108回 看護師国家試験 午前 問113 解説
📝 問題
Aさん(37歳、女性、会社員)は、1人暮らし。11月に経理部へ異動となった。新しい人間関係と慣れない仕事で帰宅後も緊張が取れず、眠れない日が続いていた。異動から3週目の朝、会社のエレベーターに乗ると、息苦しさ、動悸からパニック発作を起こした。その後も不眠とパニック発作が出現したため、異動から2か月後、精神科クリニックを受診し、パニック障害と診断された。主治医からは、短時間型の睡眠薬と選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉が処方された。また、職場の協力を得て仕事量の調整をしてもらうことになった。受診から5日後、Aさんから「昨日の朝から気分が悪くなり、下痢をするようになった」と電話があった。 受診から1か月後、Aさんは11階の職場に向かう途中、エレベーターの中でパニック発作を再び起こした。その時は、息が止まってしまうように感じた。それ以来、エレベーターを見ると、また同じようになってしまうかもしれないと思うようになり、怖くて乗れなくなり、仕事にも支障が出るようになった。 Aさんへの看護師の対応で最も適切なのはどれか。
✅ 正解
1
💡 解説
✅ 『エレベーターで息が止まる』という誤った認知とそれに伴う感情・行動を修正する認知行動療法的アプローチが最も適切である。
Aさんはパニック発作の体験から『エレベーターに乗るとまた息が止まってしまう』という誤った破局的認知を身につけ、それが不安(感情)と回避行動(乗れない)を生んで、仕事にも支障を来している。 これはパニック障害・広場恐怖の典型で、治療の中心は認知行動療法である。 誤った認知を現実に合ったものへ直し、段階的に不安な場面へ向き合う(曝露)ことで、感情と回避行動の改善を図る。 この認知の修正が、最も適切な対応になる。
残る3つは、この場面での第一選択にならない。 同じ症状をもつ人どうしの話し合いは支えになるが、破局的認知そのものは動かしにくい。 抗うつ薬の知識を伝えるのは服薬支援であって、回避行動を減らす手立てではない。 ロールプレイで練習する社会生活技能訓練〈SST〉は、主に統合失調症の生活技能・対人技能に用いる。
広場恐怖とは
発作が起きたときに逃げられない・助けを求めにくいと感じる場所や状況を避けるようになること。電車・エレベーター・人混みが代表。
- 1
「エレベーターの中で息が止まる」という認知による感情・行動を修正する。正解
破局的認知を修正し、それに伴う感情と回避行動を変える認知行動療法的なかかわりは、パニック障害・広場恐怖に有効である。
- 2
同じ症状を持つ人々との話し合いを通じて症状の軽減を図る。不正解
同じ症状を持つ人々との話し合い(自助グループ的関わり)は支援になりうるが、破局的認知の修正には認知行動療法が優先される。
- 3
抗うつ薬の効果についての正しい知識を教育する。不正解
抗うつ薬の知識教育も服薬支援として有用だが、この場面で回避行動を改善する最も適切な対応は認知の修正である。
- 4
ロールプレイを通じて社会生活技能を訓練する。不正解
社会生活技能訓練〈SST〉は主に統合失調症などの生活・対人技能向上に用い、パニック障害の認知修正の中心技法ではない。
📚 国試でよく狙われるところ
精神療法は、技法の名前と適応する疾患を入れ替えて問われる。技法と疾患を対にして覚えよう。 パニック障害は、パニック発作→予期不安→広場恐怖(回避)という悪循環をたどる。 この循環を断つことが治療の目標になる。
- パニック障害の薬物療法はSSRIが第一選択で、発作時の頓用としてベンゾジアゼピン系抗不安薬を短期間用いる
- パニック発作では動悸・呼吸困難・死の恐怖などが数分でピークに達するが、身体疾患ではないことを説明し安心を支える
| 技法 | 内容 | 主な適応 |
|---|---|---|
| 認知行動療法〈CBT〉 | 認知のゆがみを検証し、行動実験や曝露を通じて修正する | パニック障害、うつ病、強迫症、心的外傷後ストレス障害、社交不安症 |
| 曝露反応妨害法 | 不安場面にあえて向き合い、儀式行為を行わない | 強迫症 |
| 社会生活技能訓練〈SST〉 | ロールプレイで対人技能・生活技能を練習する | 統合失調症など |
| 集団精神療法・自助グループ | 同じ体験をもつ人どうしの相互支援 | 依存症、がん患者、遺族など |
| 心理教育 | 疾患・治療・対処法についての情報提供 | あらゆる精神疾患と家族支援 |
参考: 日本不安症学会 資料/医療情報科学研究所編『病気がみえる 精神科』
出典:「第108回看護師国家試験の問題および正答について」(厚生労働省)を加工して作成 → 出典について